20年ほど生きる長寿の「カタクリ」は花をつけるまでに7~8年の歳月を費やす秘密の多い植物である。明るい赤紫色の花は艶やかで、早春の妖精とも仙女とも呼ばれて、雪解けとともに定山渓の散策路をも飾る。万葉人には「カタカゴ」と呼ばれていた「カタクリ」の和名は「カタコユリ」の転訛(てんか)といわれている。『カタコ』とは『カタカゴ』のことで、しなやかな曲線を描いてそり返る花の姿が籠を傾けた形だというのが、万葉人の見方であった。花期は4~5月。
高さ10~20㎝の多年草で山野に群生する。ユリ科特有の地下にある鱗茎から2枚の葉と花茎を出す。鱗茎にはでんぷんが多く含まれ、昔は片栗粉の原料とされた。片栗粉100gつくるのに鱗茎200個必要だったとのことである。
謎の多い
葉は、やや肉質で淡緑色。表面にふつう紫褐色の斑紋が入るが、生育地によっては全くないものもある。6枚の花被片(かひへん)からなる花は、朝夕は閉じ気温が10℃を超えるころから開き始め、17~20℃になるとそり返る。花被片の内側の基部には、W字形の蜜標がある。蜜標は花を訪れる昆虫に蜜のありかを教えるためのものといわれているが、その真意はよくわかっていない。この蜜標は人間の指紋と同じように形と色が一つ一つ全く異なっているので、カタクリの個体識別をするのには都合がよさそうだが謎は深い。
甘い香りに誘われて
果実は蒴果と呼ばれ、3稜形で中の種子には『エライオソーム』という甘いゼリー状の付属体がくっついている。『エライオソーム』には糖分だけでなく、芳香性の脂肪酸やアミノ酸なども含まれていて、蟻が誘引される。蟻は種子を巣に持ち帰り巣の中で『エライオソーム』だけを食べるために切り離し、種子は巣の外に運び出して捨てる。蟻をを利用した効果的な種子分散を図る「カタクリ」策謀家である。
春のはかない命
風はまだ冷たく、吐く息も白い早春の時節、まだらに雪の残る林床に出現し、花開き葉を展開して、他の植物に先駆け、いち早く春を告げる植物がある。森の木々が葉を広げる前に、つまり太陽の光が充分に林床に届くうちに急いで花を咲かせ、光合成をして種子をつくり地価の鱗茎に栄養をたくわえ、早々に跡形もなく地表から姿を消してしまって、翌年の春まで地中の球根や地下茎という姿で休眠生活に入る植物である。これらの小さく可憐な植物群は「スプリングエフェメラル」
と呼ばれる。「蜉蝣(かげろう)のようにきわめて短い命」、「春のはかない命」という意味で、その代表が「カタクリ」である。
美しい紅紫色の花が群れて、冷たい風に揺れる姿には、清楚感が漂い、懸命さも感じられる。カタクリの花の咲く場所に身を置くと春の息吹と生命力とが実感でき、元気がでる。
信息
- 科名・属名
- ユリ科
- 花期
- 4・5月
- 花の色
- ピンク・赤・紫
分类
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 4月, 5月
- 色
- ピンク, 赤, 紫