百花の魁(さきがけ)といわれる「フクジュソウ」は定山渓の春告花(はるつげばな)である。雪解け直後、黄金色の鮮やかな花を開いて彩に満ちた季節の始まりを知らせてくれる。高さ5~30cmの多年草で、有毒植物である。葉は羽状に細裂し、互生して托葉がある。花は茎に1~6個つき、径3~4㎝。
日が当たると上向きに開花し、夕方には閉じてしまう。花弁は金属光沢のある黄色で20~30枚パラボラアンテナのような形になり、早春のまだ弱々しい太陽光線を効率よく花の中央に集め、その熱で昆虫たちを呼び寄せて受粉する。花期は3~5月。
定山渓の春告花
定山渓の明るい広葉樹林下で寒さも厭(いと)わず一番に花開き、あとに続いて次々に咲き出す百花を、心満ち足りて眺めやる、そんな「フクジュソウ」の花は仙人の笑い顔にも喩えられる。雪の中からも顔を出す「フクジュソウ」の花を合図に、定山渓の冬は一気に雪解け水と共に流れ去り、すべてが新しく生まれ変わっていゆく。耀く森の息吹と煌めく渓谷の雪解け水は、定山渓の春の風物詩であり、訪れる人をみずみずしく甦らせてくれる。とくにこの季節、どんな言葉より「フクジュソウ」に代表される花の無言に慰められ、励まされ、勇気づけられるのである。
北海道に多く自生する「フクジュソウ」はアイヌの人たちにも親しまれ、「チライアパッポ」と呼ばれている。「チライ」とは日本最大の淡水魚であるサケ科の「イトウ」、「アパッポ」は花のことで「フクジュソウ」の花が咲く頃、「イトウ」が川をのぼるとされる。またアイヌ神話では「クナウノンノ」という名で呼ばれている。霞の女神「クナウ」は父である雷神「カンナカムイ」が見合いさせた相手を嫌い、逃げ隠れする。ついには父親の怒りをかい、女神は一本の花「ノンノ」に変えられてします。それが「フクジュソウ」だとされる。
「フクジュソウ」は江戸時代より、幸福と長寿のめでたい花、縁起のよい花として人気があり、旧暦正月の飾りとして利用され、「元日草」とも呼ばれてきた。そのため、日本独自の園芸品種として栽培され、江戸期に盛んに改良もされ、紅花、白花、八重咲など126種の品種が記録されている。現在も観賞用としての人気が高く、公園や庭、鉢植えなどでもよく見かけられる一方、野生種は乱獲により激減している。種から花をつけるまでは5年の歳月を要する。
「フクジュソウ」の花が散った後につく金平糖のような果実には根や茎、葉と同様、強心配糖体『アドニン』が含まれ、食べると心臓麻痺を起こすので注意が必要である。根は強心剤として利用されている。
インフォメーション
- 科名・属名
- キンポウゲ科
- 花期
- 4・5月
- 花の色
- 黄色
カテゴリ
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 4月、5月
- 色
- 黄