山地の岩の割れ目など、特に厳しい環境に生育し、変異が大きいツリガネニンジン属の多年草。
定山渓の渓流沿いの岸壁に涼しげに垂れ下がって、薄紫色を帯びた釣鐘のような花をたくさん咲かせている姿に出会うと、北国の短い秋の訪れを予感させられる。
札幌市藻岩山産の標本が基となって特定された亜種であることから『藻岩沙参』の和名が付与された。現在、残念ながら藻岩山ではその姿が見られず、八剣山や定山渓でよく見られる。「シャジン」は「ツリガネニンジン(釣鐘人参)」の漢名。「沙参」はまた、漢方の生薬名で、ツリガネニンジンの根を去痰、鎮咳剤として用いる。
『モイワシャジン』は高さ30~90cm。茎葉は互生または対生、時に輪生する。長さ2~8cmの葉身も、披針形、または卵形とこれまた変異差が大きい。無柄で先がとがり縁には鋸歯がある。
花は総状、または貧弱な円錐花序となる。花冠は鐘上で、長さ1.5~3㎝。先が5裂する。がく裂片は披針形。花色は青紫から白まであるが、定山渓のものは淡紫色、または白が多い。花期は7月中旬から9月。
定山渓を棲み処としている『モイワシャジン』は、蒼古幽遠の過酷な環境にふさわしい風情で花開いている。山野草愛好家たちには、仙境の花「定山沙参」と呼ばれて愛され愉しまれている。
「定山渓の渓流沿い散策路を歩くと、名もない花がたくさん咲いていた・・・」という文章を誰かが書いたとする。この地上には正式に名前の付いていない植物がまだまだたくさんあるのは事実だから、この文章は間違っていないのかもしれない。しかし「名もない花」とは一般に名を知られていない、目立たない花という一種の文学的表現であって、少し植物の知識がある人ならば、正しい名前を知っているようなことが多い。花の名前はどこまで知っていればいいのかなどと、ケチなことを考えずに、人にたずねるなり、図鑑で調べるなりして、名前を知った方がいいに決まっている。人間同士の、ほどほどのつき合いならば、余計なことは知らない方がいい場合もあるが、花という口のきかない自然とのつき合いを続けてゆく場合には、知れば知るほどおもしろくなり、つき合いの深さは限りがない。
花と心の交流をはじめて、命と命の対話ができるようになってほしい。「定山沙参」、いい花である。
インフォメーション
- 科名・属名
- キキョウ科
- 花期
- 7月中旬~9月
- 花の色
- 白・青紫・淡黄色
カテゴリ
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 7月、8月、9月
- 色
- 白、黄、紫