「キツリフネ」は高さ50㎝ほどで、全体に無毛で、白っぽく軟弱。葉は互生し柄があり薄くてやわらかく、葉身は長楕円形で縁に粗い鋸歯がある。夏に葉腋から細い花柄を出して、黄色の花を3~4個つり下げる。花の長さは3~4㎝。花の太い袋状の部分はがく片の1個で、基部は距になる。距は下に曲がり「ツリフネソウ」のように巻き込まない。花弁は3枚で開口部をつくっている。下方の2枚は合着して唇弁となり内面に赤色の斑紋がある。花期は7~9月。
「キツリフネ」は、やや湿ったところを好む一年草で、山地の渓流沿いに多く群生する。定山渓では、「定山鳳仙花」と愛称され、親しまれているが、エゾシカも大好きで食べられてしまうことが多い。同じ仲間に「ツリフネソウ」「シロツリフネソウ」「ウスキツリフネ」がある。
江戸時代に渡来してよく知られた「ホウセンカ(鳳仙花)」はじめ、「ハナツリフネソウ(花釣舟草)」や「オニツリフネソウ(鬼釣舟草)」もヒマラヤからインド原産の園芸品種で、同じツリフネソウ科ツリフネソウ属の植物である。
果実(蒴果)は熟すと勢いよく種子を飛ばす。ちょっとした刺激でも弾ける。学名のインパチェンスの意味は「こらえきれない」「がまんできない」。英名の「タッチ ミー ナット(Touch me not!)」は「さわらないで!」。とにかく果実に触れると種子が弾け飛ぶ。花の姿形が船を釣り下げたように見えることから、その名が付いているが、実際に不思議な形をしていてよく目立つ。「キツリフネ」は、この不思議な形の花の中に「マルハナバチ」を利用した巧みな構造を仕組んで、自家受粉を避けているのだ。花の後ろに長く伸びる距の部分に、蜜をためる。蜜を求める「マルハナバチ」の背中に花粉がつくように、雄しべは花の正面前方の上側に位置する。まずは蜜を一番奥の方に隠し、「マルハナバチ」を手こずらせて、花粉を「マルハナバチ」にしっかりくっつけるための仕掛けである。雌しべは雄しべの奥に隠れている。
咲きはじめたばかりの花では、雄しべにはたっぷりと花粉がついているが、終わりのころの花の雌しべには花粉がなくなってしまい、奥に隠れていた雌しべが現れ出て、今度は「マルハナバチ」が背中につけてくる他の花の花粉を受け取れるようになる。以上がキツリフネの自花受粉を避けるしくみ。なかなかに巧妙な細工というか手口である。
インフォメーション
- 科名・属名
- ツリフネソウ科
- 花期
- 7~9月
- 花の色
- 黄色
カテゴリ
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 7月、8月、9月
- 色
- 黄