「荷葉」は蓮の葉のこと。「山荷葉」はつまり山に生え、葉が蓮の葉に似た草木だからと名付けられた。蓮の葉というよりも、蕗の葉と見紛う。属名のディフレイア(Diphylleia)はギリシャ語で「2枚の葉」という意味。
「サンカヨウ」はふつう大きな2枚の葉をつける。まれに3枚つけることもある。深山や亜高山帯の明るく、湿ったところ、沢沿いなどに自生する。日本海側の雪の多い地域に多い。高さ30~60cmの多年草。花びらは雨に濡れると半透明になり、まるでガラス細工の美術品である。花期は5~6月。
葉は腎円形で中央部が深く切れ込み、下の葉には長い柄があり、上の葉には柄がない。どちらの葉にも、ふぞろいの鋭い鋸歯が並ぶ。葉の表面は艶があるものの、脈部分が凹んで、やや蓮の葉の裏面の葉脈に似た形状で、スリガラス状。小さな上の葉だけに3個から10個のまとまった白い花をつける。緑色の小さながく片は開花と同時に落ちる。花弁は6枚あり、長さ約1㎝。雄しべは6個、雌しべは1個。地下茎は太く、横にはい、多くのひげ根を出す。
「サンカヨウ」の果実は楕円形で8~15㎜。濃く深い青色に熟し、白粉で被われる。甘酸っぱい液果でおいしく食べられるのだが、あまりの美しさになかなか手が出ない。大きな葉をもつ山野草は意外なほど小さな花や実をつける。この意外性が、また見る者の目を喜ばせるのだ。
「サンカヨウ」の花は、清楚で香りも芳しく、定山渓の渓流に溶け込んで咲いている。雨に打たれても、花の誇りを捨てないその高潔さというものが見え隠れする。
「寂(しず)かに 観ずれば 物音自得す」
これは、俳聖、松尾芭蕉の言葉であるが、「サンカヨウ」の花も、おのずから、みずから安んじているのが見える。その安らかなる生を、何ものといえども乱すことがあってはならないのだ。常にこころを虚ろにし、やわらかく静かに流動してやまざるもの、変化し清新なるもの、あくまで滞ることを嫌い、重々しさをのがれ、軽く軽く浅瀬を流れる水のごとく、あくまで自由に自在に明るくておおらかで、清けさとでもいうようなものを求める日本人のこころを大切にしていきたいものである。
インフォメーション
- 科名・属名
- メギ科
- 花期
- 5・6月
- 花の色
- 白
カテゴリ
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 5月、6月
- 色
- 白