定山渓の森 Encyclopedia of flora and fauna
動植物図鑑

クリンソウ(九輪草)

「クリンソウ」は山地渓流沿いの湿ったところに生育する多年草で、淡い紅色の花がよく目立つ。定山渓では沢のほとりにピンクのかざぐるまが揺れている風情で、初夏の訪れを告げている。

 日本のサクラソウの仲間では最も大きく、高さ80㎝ほどになる。葉は大形で緑に鋸歯があり根生する。花期は5~6月。花は輪になってつきそれが普通3~7段になり、その姿形が五重塔の頂上に着く『九輪』に見立てられて和名となった。

五重塔の屋根上の『九輪』

花色は淡紅色から紅紫色と濃淡の変化があり、白花もある。花は下の段から咲きはじめ、咲くに従って花茎が伸びる。幾重にも層をなして咲く派手な花々の群生景観は圧巻である。なぜ群生景観が維持されているかと言えば、クリンソウは鹿も食べない有毒植物だからである。

一茶とクリンソウ

“我国は 草も桜を 咲にけり”

と小林一茶に詠まれたサクラソウ科の山野草である。

一茶にはクリンソウを詠んだ句がもう一つある。

“九輪草 四五輪草で しまひけり”

一茶という俳人は自然を伝統的な風雅感にとらわれず、大胆かつ率直に飄々と詠っている。あまりにも「かまえ」がないので言葉は自然に入ってくる。観察眼や映像化能力、言語感覚は優れて高いにも関わらず、この飄逸さが一茶の持ち味なのだ。一茶は自然をいつくしみ、おおらかに謙虚に生きた偉大な俳人といえる。

  日本人は古来「雪・月・花」といって、自然の事象を愛で、歌に詠み、文学に織り込み、また生活の中でそれらを楽しんできた。そうした自然の移り変わりを表すものとして『雪・月』と共に『花』がその代表とされてきた。現代においても、草木の花は美しいものの代名詞としても使われ親しまれている。

イギリスに渡る

江戸時代末期に来日したイギリスの園芸学者である『ロバート・フォーチュン』は特に「クリンソウ」に魅せられ、著書の『江戸と北京』に「日本の植物の中で最も心をひかれた美しい花」と書いている。ロバート・フォーチュンと共にイギリスに渡った「クリンソウ」は1871年(明治4年)『プリムラ・ヤポニカ』と名付けられた。明治4年といえば、定山渓温泉の開祖『美泉定山』が開拓使より「湯守」を命じられ、この地が「定山渓」と命名された年である。『プリムラ・ヤポニカ」はヨーロッパで大変珍しがられ、ひろく栽培、園芸化され、日本に逆輸入されてきた。「ロバート・フォーチュンはクリンソウの立ち姿と花の顔(かんばせ)に魅了された」と記している花の辞典もある。「花の顔(かんばせ)」とは美しい容貌という意味と同時に、匂いたつ美しさ、凄艶な美女の風情といった意味が含まれる。クリンソウについての様々なほめ言葉もなかなかに豪華で美しい。

インフォメーション

科名・属名
サクラソウ科
花期
5・6月
花の色
赤・紫

カテゴリ

分類
花・植物
季節
5月、6月
赤、紫
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