定山渓の森 Encyclopedia of flora and fauna
動植物図鑑

ヤマハナソウ(山鼻草)

 
 ヤマハナソウは山地谷沿いの湿った岩上や崖などの急斜面に生育する多年草。高さは10~40cm。長軟毛や腺毛が多い。ヤマハナソウの生育環境に適した定山渓に多く自生している。花期は5月下旬から7月。

 日本で最初に採集された標本が札幌市の山鼻地区のものだったことが和名の由来。
 ユキノシタ科ユキノシタ属から現在はエゾクロクモソウ(蝦夷黒雲草)と共に、チシマイワブキ(千島岩蕗)属として扱われている。

 花は5~6mmと小さく、全体が白く見えるが、10本の雄しべの先の赤色の葯が白い5枚の花弁を背景にして美しいので、ルーペ(拡大鏡)での観察を推奨する。雄しべの花糸は紡錘形。花弁の中央には黄色の斑点紋がある。2個の雌しべは基部で合着している。
 葉がない花茎には、腺毛を密生させ、触れると粘りを感じる。
 根茎は短い。岩の熱を直接受けるべく、根出葉はロゼット状(放射状)となって根元に集まっている。葉は根出葉のみで、やや厚く、さわるとビロードのような感触で、葉裏の赤紫色には意表をつかれる。長卵形の葉は、長さ4~10cmで、縁には粗い鋸歯がある。葉がない花茎には、腺毛を密生させ、触れると粘りを感じる。

<山鼻草物語>

 豊平川上流域のアイヌ集落の酋長が、夕暮れ時、雪に包まれて暮れてゆく四方の山々の雪景色を眺めていた。その時、どこから来たのか、忽然と白ずくめの、まるで雪女のような女が現れたが、その姿はいつかふと消えた。翌朝早く、酋長はあわただしく戸をたたく村人たちに起こされた。村人がいうには酋長の家の屋根に白羽の矢が立っているというのであった。むかしから屋根に白羽の矢が立つと、村に厄災が起きるとの言い伝えがあったから、村はたちまち大騒ぎとなった。
 ことに酋長は夕べ見たふしぎな白衣の女のことを思い出すと、身も心も凍る思いであった。やがて酋長はそれが雪の神の仕業だと悟った。このままでは村にどんな厄介が起きるかも知れない。村を救うためには、親としては忍びがたいが、雪の神に捧げる犠牲には自分の愛娘を供するほかないと決意した。娘は泣いて見送ると村人たちに別れを告げると、ただひとり、悄然と雪の山へと向かった。ところが、この娘には恋人がいた。突然その場に現れて、娘をさらうと、いきなり雪を蹴って逃げ去った。だが村人たちの追跡はいよいよ急で、か弱い女連れではとても逃げおおせるものではない。悟った二人は、抱き合ったまま、断崖絶壁を転げ落ち、豊平川の深い淵に沈んだ、雪解け後、村人たちがその場に行ってみると、絶壁の岩場に1本の白羽の矢が立っていて、そばにヤマハナソウの白い花が咲いていた。若い二人が天国で結ばれて、その魂が花になって、この世に咲いたものと村人たちは噂したという。葉裏の赤紫色は崖を滑り落ちたときの擦り傷の跡と言われている。

インフォメーション

科名・属名
ユキノシタ科
花期
5~7月
花の色

カテゴリ

分類
花・植物
季節
5月、6月、7月
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