定山渓の森 Encyclopedia of flora and fauna
動植物図鑑

エゾノハナシノブ(蝦夷花忍) 

エゾノハナシノブは山地渓谷の岩場やその周辺の日当たりの良いところに自生し、定山渓の名花として有名。和名の由来は葉の形がシノブに似ていることによる。高さ35~70cmの多年草。

葉は奇数羽状に全裂し、長さ3cmほどの披針形の裂片が19~25枚ある。花は青紫色で、径約3cm。花弁は5深裂し、裂片の先がわずかに凹むか、わずかに尖る。がく片も5深裂し、腺毛がある。ごく稀に、白花が見られる。花期は6~7月。

定山も愛した花

上品で、清楚で優美な花と折り目正しく並んで羽状につく葉とが調和し、何とも奥ゆかしく涼しげな山野草であるのだが、盗掘や生育環境の悪化により残念ながら現在絶滅危惧種に指定されている。

「儂の好きな花とは、巧まざる可憐さと野趣に富む慎ましやかな美しさとで魅了する自然の花たちである。自然のたたずまいの中に、自然に生きるありのままの姿の花たちである。」これは定山渓温泉の開祖、『美泉定山』の言葉。いにしえの豊平峡周辺は至る所がエゾノハナシノブの群生地だったと言われ、定山は殊の外、エゾノハナシノブを愛したという。確かにエゾノハナシノブの美しさには日本人が美しいと感じるものの原点がある。優しく清らかな美しさである。

自然に寄って満たされる人間の欲求は、そうした「美」を愛したいという欲求に他ならないのだろう。

花は目立つためにある。けれども緑濃い夏の森の中では青色は目立たない。実際、青い花は少ない。エゾノハナシノブには名前のとおり、世を忍び、人目を避ける何かよく別な理由があるのかもしれない。青は人間が認識するのが最も難しい色なのだそうである。木下闇のなかの青色には不安や寒さを感じるが、初夏のさわやかな風に吹かれて咲くエゾノハナシノブのちょっぴり紫色を帯びた上品で明るい青色には、ロマンを感じ、潤いや安らぎを与えてくれる素晴らしい青色である。

青眼の花

定山渓の誇りでもあるエゾノハナシノブは、事実「定山渓固有種」といっても良いくらいで「定山花忍」と和名を変えたいくらいである。数多ある山野草のなかで最も清楚な印象を放ち、植物愛好家たちにもっとも愛されている。定山渓温泉という観光地の花として、知る人ぞ知る「青眼の花」とも呼ばれる。『青眼』の本来の意味は自分の好きな人をよろこび迎えるこころがあらわれた眼のこと。自分の好きな人は青眼で迎え、嫌いな人は白眼で迎えたという中国の故事による。

定山渓を舞台に青眼の5人の巫女が、黄色の髪飾りをつけて、観光客の前で踊る姿が連想され、なんとも愉快な情景を醸し出すエゾノハナシノブの花である。初夏のさわやかな緑の風に吹かれて咲き乱れる「青眼の花」エゾノハナシノブは定山渓への神様からの贈物にちがいない。葉も天国へ連なる梯子のように見える。

インフォメーション

科名・属名
ハナシノブ科
花期
6・7月
花の色
青・紫

カテゴリ

分類
花・植物
季節
6月、7月
青、紫
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