山地林内に生育する高さ30~50㎝の多年草。球根(偽球根)から花茎を出し、笹に似た濃緑色の葉をふつう1枚、まれに2枚つける。葉は長さ20~30㎝でやや厚く、3本の縦脈が目立つ。新葉が秋に出て越冬し初夏に開花した後に枯れる。花は淡紅色から紅紫色で数が多く、一方に偏ってつき、横向きから下向きに咲く。唇弁以外の花被片5枚はほぼ同形同大で斜めに開いて短い唇弁を隠している。唇弁も鮮やかな紅紫色。花期は5月下旬から6月。
「采配蘭」の和名の由来は戦国時代の武将が指揮命令を下すときに使用した「采配」に花の姿かたちが似ていることによる。アイヌ語名は「ニマクトク」で、「歯にくっつく」の意。アイヌの人たちは球根を焼いて食べると栗に似た味がして旨いという。
球根の生薬名は「采配蘭」で、煎じた液汁を胃腸カタル(胃や小腸・大腸の粘膜の炎症)の薬として用い、粉末にしたものは、ひびやあかぎれにすりこむと薬効があるという。
古来、蘭の仲間は観賞用に栽培されるものが多いが、艶やかな花姿とは裏腹に、気難しい植物でもある。 「サイハイラン」の紅紫色の花は、初夏の新緑の森によく映える。特に雨の日は、その色彩が瑞々しく、鮮やかさを増し、花のひとつひとつが呼吸している鼓動のようなものを伝えてくる気がする。雨の日は木漏日さえなく、薄暗いのだが、ほどよい湿った空気と森が醸し出す独特の香りの中で、紅紫色の花は際立ち、生き生きとしている。
雨に濡れた花が雫をたらしながら光り輝いているのも艶めかしい。その姿が心に染みて潤されるのだ。心を澄ませば、ざあざあという雨音に混じってすべての植物たちの悦びの声が聞こえてくる。雨上がりもドラマチックである。
森のどこからともなく小鳥たちが現れて、大喜びで騒ぎ出す。シマエナガ、ゴジュウカラ、シジュウカラ、ハシブトガラ、それに加えてアカゲラやコゲラ、キバシリもいて、まるで晩秋に形成される「カラ類の混群」である。
定山渓で味わえる贅沢な時間と空間。しっとりと落ち着いた定山渓の6月の森でぜひ「サイハイラン」に会ってみてほしい。
インフォメーション
- 科名・属名
- ラン科
- 花期
- 5~6月
- 花の色
- 白・ピンク・赤色
カテゴリ
- 分類
- 花・植物
- 季節
- 5月
- 色
- 白、ピンク、赤