定山渓の森 Encyclopedia of flora and fauna
動植物図鑑

エゾトリカブト(蝦夷鳥兜)

 伶人(雅楽を演奏する人)は正式の装束では鳳凰(想像上のめでたい瑞鳥)の頭に似せた鳥兜と呼ばれる冠をかぶる。この鳥兜に花の形が似ていることがトリカブトの和名の由来である。

 山地の林縁や林内に生育する高さ50cmから2mほどになる疑似1年草といわれる植物。毎年、新しい根が古い根の横におきかわる。茎は弓なりに曲がり、葉は3全裂に近く、互生する。葉の裂片は中裂で欠刻片は卵形から披針形。花は下から咲き上がり、柄には屈毛がある。深紫色の華麗な花が多数集まって咲く。
 がく片は5枚あり上の1枚が兜のような形で立ち上がり大きい。その内側に退化した2枚の花弁があり、無毛の雌しべ3個と雄しべが多数ある。花期は8~9月。
 トリカブト属は日本の山野に30種ほど自生するが、変異が多すぎて分類が非常に困難とされる。

ヒグマもコロリ

 エゾトリカブトには全草に猛毒のアコニチン系アルカロイドが含まれている。アコニチンの毒性は青酸カリの百倍という。エゾトリカブトの毒は、植物界で最強、自然界ではフグに次いで2番目といわれる。特に根は毒性が強く、矢毒として利用したアイヌの人たちは「ヒグマもコロリ」という。アイヌ語名は「スルク」。

 トリカブトの毒性を解明したのは元北海道大学学長、杉野目晴貞名誉教授である。研究を始めたのは大正7年からで、学長になる昭和29年までトリカブトをいじっていたという。根の毒性は銭函産の『オクトリカブト』が最強と判ったが、定山渓産のトリカブトは無毒とわかったのだから面白いものだと言っている。
 漢方薬では塊根を乾燥させたものを『烏頭(ウズ・・・カラスの頭に似ていることから)』と称し、これを滅毒したものを『附子(フシ・・・母根の両側に子根がついてることから)』といい、鎮痛・強壮・興奮・利尿・強心剤として利用する。しかし漢方薬といっても分量を誤れば死に至る。日本の本草学の第一人者である白井光太郎博士は、烏頭を強壮剤として服用していて中毒死している。「ある朝、突然死んでいた」というのは杉野目先生。

 狂言の『附子』は主人の留守に「附子」だといわれていた黒糖をすっかりなめ尽くしてしまった太郎冠者と次郎冠者が、主人愛玩の茶碗や掛け軸を破り、「附子」をなめて死のうとしたが、効き目がなかったと言い訳する話である。

 「トリカブト」と聞いただけで、なんとなく体力が消耗していくような気分になるが、個性的な花容と美しく高貴な紫の花色を目の前にすれば猛毒の花であることを忘れてしまう。

 花言葉は「人間ぎらい」と「復讐」だそうである。

インフォメーション

科名・属名
キンポウゲ科
花期
8~9月
花の色
青・紫色

カテゴリ

分類
花・植物
季節
8月、9月
青、紺・藍色、紫
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